退職勧奨

問題社員への退職勧奨の進め方と注意点

問題社員を退職させたい場合,正社員を辞めさせるのは容易ではないこと,方法としては解雇ではなく合意退職を目指すべきことについて,別稿「問題社員やリストラ対象社員を退職させたい~お勧めの方法や注意点は?」にて解説しました。そこで,本稿では,退職の合意に至るまでのプロセスとして退職勧奨を行う際の留意点と進め方について解説します。

退職勧奨を行う際の注意点

退職勧奨を行う際の注意点としては,①社員の個性等に応じて柔軟に対応する,②パワハラとして訴えられないようにする,③退職合意の有効性を争われないようにする,④相手への配慮を欠かさないようにする,という4つのポイントが挙げられます。以下,それぞれについて詳しく述べます。

①社員の個性等に応じて柔軟に対応する

会社が退職させたい問題社員に対して辞めてくれと申し出ても,すんなりと受け入れられることはないのが通常です。退職勧奨には,どのような場合にも通用する一律の方法や進め方があるわけではありません。

そこで,社員が抱えている問題点はどのようなものか,また,その程度はどれくらいか,退職についてどのような意向をもっているかといった,社員の個性やおかれた状況等を考慮し,最適な進め方・シナリオを準備して臨むことが求められます。

退職という結果を焦るあまり,拙速に退職勧奨をスタートさせることは,却って会社にとって不利な状況となるおそれがあります。どのように説得すれば対象の社員が退職合意に応じるのか,ゴールから逆算して周到に段取りをしておくことが肝要です。

②パワハラとして訴えられないようにする

退職勧奨をすること自体は何ら違法ではありませんが,やり方によっては違法と評価され,退職させたい社員から損害賠償を受けてしまう場合があります。代表的なのはパワハラとされる場合ですが,退職という目的が達成できないばかりでなく,訴えられたりすることにより会社は多大な損害を被ることになりますので,このような自体は絶対に避けなければなりません。この点については,姉妹サイトの記事「退職勧奨はパワハラになるのか?判例と対策を解説」にて詳しく解説していますので,こちらをご参照下さい。

③退職合意の有効性を争われないようにする

また,退職合意に至った後に,その効力が争われないようにすることにも留意する必要があります。具体的には,退職の合意が錯誤や強迫に基づくものであるため取り消す,という主張をされないようにするということです。この点については別稿にて解説する予定ですが,紛争に発展しやすい場合として,退職に応じない場合には解雇や退職金の没収をすることを告知し,それが嫌なら退職に応じなさい,という趣旨の説得をしてしまうケースが挙げられます。裁判で争った場合,このような説得が常に錯誤や強迫に当たると判断されるわけではありませんが,合意退職の主たる目的が紛争の回避にある以上,退職させたい社員から訴えられること自体予防しなければ意味がありません。そこで,「退職に応じないならクビにする/退職金を支給しない」といった言葉は,退職勧奨におけるNGワードと心得え,控えるようにしましょう。

④相手への配慮を欠かさないようにする

上記のようにパワハラに該当するような進め方は論外として,退職させたい社員に対しても,礼儀を欠く言動は厳に慎まなければなりません。合意を目指す以上,感情的な反発は可能な限り避けるべきだからです。ただし,何も下手に出る必要はありません。相手の問題行動の内容によっては毅然とした態度で臨まないといけない場合もあるでしょう。とはいえ,退職勧奨は,会社から戦力外通告をされることを意味していますので,社会人としては大なり小なりプライドが傷つけられるものです。退職勧奨の面談では,そのような相手の心情を理解した上でやりとりするだけでも,相手の受ける印象は少なからず違ってくるものと思われます。人は感情の生き物であることを常に意識しておくべきでしょう。

また,感情面だけでなく,退職により仕事がなくなることは,社員の経済的な環境によっては,生活か根底から脅かされることになりますので,より切実な問題となります。そこで,いわゆるパッケージ等の優遇措置を検討するなど,経済面での配慮をすることが,退職合意のカギとなることが少なくありません。この点については,別稿にて詳しく解説する予定です。

退職勧奨の進め方のポイント

退職勧奨は,準備→面談→合意書作成という段階で進んでいきますが,準備段階では,①会社の主張をしっかりと整理しておくこと,面談の段階では,②反論を書面で提出させること,③パッケージ等の優遇措置を効果的に使うこと,④合意書作成の段階では,次に持ち越さずその場で作成することが,退職合意を成立させるために有効なポイントとして挙げられます。これらについて,以下,詳しく述べます。

①準備を万端に整える

上記のように,退職合意を成立させる可能性を高めるためには,事案に応じた準備を整える必要がありますが,その一環として,相手にどのような問題点・落ち度があるのかをしっかりと把握し,会社から辞めろと言われても仕方ないと相手も納得するくらい事情を整理して,分かりやすく伝えられるようにしておくことが重要です。そのためには,問題行動を裏付ける証拠資料等も準備しておき,すぐ相手に示せるように論点ごとに整理する等しておくとよいでしょう。このような万全の準備を整えることで,退職勧奨の対象の社員に,会社の本気を見せられることになり,結果として退職勧奨に応じる可能性が高くなるといえます。

②反論は書面で提出させる

その上で,退職勧奨を行う相手には言い分があるかもしれません。これを全く無視するのは,手続の適正という観点から後に問題になりかねませんが,特に問題行動の有無に争いがある場合等,退職勧奨の面談でこの点をだらだらと議論するのは時間の無駄です。また,徒に議論が長引くことにより,感情的な対立が生じてしまう可能性もあります。これでは元も子もありません。

そこで,対象の社員に反論がある場合には,書面にまとめて提出させるようにしましょう。

これは,退職勧奨にどうしても応じない場合に解雇に踏み切る際に,後に裁判で解雇の有効性を争われたときに有利なしょうことなる場合がありますので,この点でもお勧めです。

③“アメ”を効果的に使う

退職勧奨において,問題社員の落ち度を指摘して退職を促すのが“ムチ”だとすれば,いわゆるパッケージ等の優遇措置は“アメ”といえます。この“アメ”を,相手のキャラクターや面談の進行に応じて効果的なタイミングで使うことにより,退職合意が成立する可能性が大幅に上がります。

④社員が退職に応じる姿勢を示したときはすぐに合意書を作成する

社員が退職に前向きな姿勢を示したときには,すぐに退職合意書を作成しましょう。せっかく社員がこのように退職に応じる気配をみせても,合意書の作成が次の機会に持ち越されると,気が変ったりしてしまい,せっかくあと一歩のところまできた退職勧奨が後退してしまうことが少なくないからです。

まとめ

退職勧奨を行う際の留意点と進め方のポイントは以上のとおりです。実際に退職勧奨をスタートさせる前に,これらをご参考に準備をしておかれると,合意退職という目的を達成できる可能性が大きく上がるでしょう。

とはいえ,退職させたい問題社員の状況等,事案に応じた準備というのは中々難しいものです。そこで,弁護士等の専門家のサポートを準備段階から受けられることをお勧めします。退職勧奨を行うに当たり弁護士のサポートを受けるメリットや費用の相場等については,別稿「退職勧奨に弁護士の同席は必要?サポートを受けるメリットと費用の相場を解説」をお読み下さい。

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