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うつ病の社員を辞めさせるには?その2~私傷病で休職とする場合

別稿「うつ病の社員を辞めさせるには?その1~業務災害か私傷病か」にて,うつ病の原因が業務に起因する場合(業務災害である場合)と,そうでない場合(私傷病である場合)とで会社としてとるべき対応が異なるため,まずはこの点の見極めが肝要である旨解説しました。

本稿では,うつ病が私傷病である場合に会社としてとるべき対応について,休職制度の仕組みと合わせて詳しく解説します。

休職制度とは

休職とは,社員が私傷病により労務の提供ができない場合に,直ちに解雇するのではなく,雇用契約を維持しながら,一定期間労務の提供を免除し,療養させる制度のことです。

多くの会社では,就業規則上,社員が私傷病により仕事ができなくなることが解雇事由の一つとして定められていますが,他方で,休職制度も合わせて整備されているのが通常です。休職期間中に給料払うかどうか,払うとしても通常の給与に対しどれくらいの割合とするかについては,会社の就業規則等によります。

また,休職は私傷病により労務の提供ができない社員に対し一定期間解雇を猶予する趣旨の制度であるため,休職期間満了時点で病気等が回復し,復職できない場合には,自動的に退職扱いとする旨の制度とされているのが通常です。

うつ病社員への対応

休職制度を適用せずに解雇してもよいか

就業規則上,社員が私傷病により仕事ができなくなることが解雇事由として定められている場合には,業務に起因せずうつ病になった社員を,休職制度を適用せずに解雇してもよいのでしょうか。

この点,就業規則上の解雇事由に該当するとしても,これによる解雇が必ずしも有効であるとは限りません。一般論として,解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められる場合でないと,解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働契約法16条,解雇権濫用法理)。休職制度を設けている会社においては,うつ病により仕事ができなくなった社員については,まずは休職させ,療養により復職を図るというのが会社としてとるべき措置とされており,同趣旨の裁判例も複数あります。そこで,上記のように,休職による復職可能性を検討せずに直ちに行った解雇は,社員から争われた場合,無効と判断されるおそれが大きいといえます。

したがって,休職期間満了時点で復職できる可能性がないか,極めて低いと認められるような例外的な場合(重い後遺症が残るような大けがや,脳の障害等)でない限り,たとえ当該社員を辞めさせたくても,直ちに解雇をすべきではなく,休職させるべきといえます。 特に,うつ病のケースでは,休職させるべきかを検討する段階で,復職の可能性がないという判断はできないのが通常です。そこで,直ちに解雇するのではなく,休職させた上,経過をみた上で復職可能性を判断するというのが正しい対応といえるでしょう。

休職期間満了時の復職可能性の判断

社員を休職させた場合,期間満了の時点で復職の可否を判断することになりますが,うつ病のケースでは,この判断が難しいのが通常です。基本的には医師の判断によることになりますが,社員が自ら選んで受診したクリニック等では,医師が社員の意向を過度に汲んでしまい,妥当な診断がされない可能性もないとはいえません。そこで,直属の上司等が当該社員と面談する等して,復職可能性を慎重に判断したいところです。当該社員が治療を受けた医師による意見が復職可能というものであったとしても,この判断に疑問がある場合には,会社として別の医師を受診するよう命令するべきでしょう。

復職が不可能と判断される場合の対応

このように復職可能性を吟味した上で,やはり復職は無理だと判断される場合には,直ちに解雇または自働退職扱いとしてもよいのでしょうか。

この点,休職期間満了時に解雇する場合はもちろん,就業規則の定めにより自働退職扱いとする場合にも,解雇権濫用法理が適用されるため,客観的・合理的な理由と社会通念上の相当性が必要となります。休職期間満了時の解雇や自動退職扱いにおいて,この要件を充たすかを判断するに当たっては,会社が当該社員の復職可能性を検討したかどうかが重要な事情となります。

復職可能性の検討は,当該社員が従前就いていた業務に復帰できるかどうかを基本として,これができないとしても,社員の能力や会社の規模等から,当該社員を配置する現実的可能性のある他の業務があるかどうか,という基準で行われる必要があります。例えば,従前外回りの営業職に従事していた社員が休職期間満了時点において,同じ業務に従事することは難しくても,内勤の事務職には従事でき,かつ,そのポジションに空きがあるというような場合には,復職可能性が肯定されることになるでしょう。そうすると,この社員が外回り営業に復帰できないからといって解雇または退職扱いとすると,後に裁判を起こされた場合には,解雇等が無効と判断されてしまうことになります。

このように,休職期間満了時に復職できないことを理由に解雇等をするに当たっては,復職可能性を慎重に判断する必要があります。

休職期間満了時におけるうつ病社員に対するベストな取扱いは?

上記のように,休職期間満了時に復職ができなかったとしても,直ちに解雇や自動退職扱いが有効となるわけではなく,特に,うつ病等の精神疾患については,どのような業務であれば耐えられるかの見込みが極めて難しいため,代替業務への配置も含めた復職可能性の判断は至難といえます。そうすると,復職可能性なしと判断して解雇等をしても,その有効性は確実ではなく,裁判等の紛争のリスクを排除しきれない場合が多いといえるでしょう。

そこで,うつ病等により休職した社員が期間満了時において回復せず,復職可能性もないため退職させたい場合には,退職勧奨により退職合意をすることがベストな取扱いといえます。合意による退職であるため,解雇等と比べて,後に訴えられたり,裁判で敗訴したりするリスクが圧倒的に低くなるからです。

退職勧奨の進め方等については,別稿「問題社員への退職勧奨の進め方と注意点」をご参照下さい。

まとめ

一般論として,別稿「問題社員やリストラ対象社員を退職させたい~お勧めの方法や注意点は?」のとおり,社員を退職させる方法としては,解雇等,社員の意向にかかわらず会社が一方的に行うものは,裁判等の紛争リスクがあるため,手続として安定性に欠けるといえます。うつ病の社員を辞めさせるに当たっては,上記のように復職可能性等の判断が難しい上,別稿「うつ病の社員を辞めさせるには?その1~業務災害か私傷病か」のとおり,私傷病かどうかの見極めも容易ではなく,解雇等の有効性は一層不確実といえるでしょう。

そのため,うつ病等の社員を退職させるには,解雇等は極力回避し,退職勧奨により合意退職を目指すべきといえます。

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