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問題社員やリストラ対象社員を退職させたい~お勧めの方法や注意点は?

会社を悩ませる労働問題の多くは,社員を退職させる場面で起こります。社員が自ら辞職する場合には,会社の運営上支障が生じることはあっても,法律的なトラブルになることはそれほど多くありません。これに対し,いわゆる問題社員や,リストラ対象の社員を,本人の意に反して退職させようとする場合には,様々な法的リスクを考慮する必要があります。  

そこで,本稿では,特に正社員を退職させたい会社が,どのような方法をとるべきか,また,その際の注意点について解説します。

正社員を退職させるのは容易でない

いわゆる正社員とは,会社と期間を定めずに雇用契約を結んだ従業員です。これに対し,いわゆる契約社員等については,会社と雇用期間を定めて雇用契約を結んでいます。そのため,契約社員等については,雇用期間が満了すれば,雇用契約を更新しない限り,原則として雇用契約は終了し,退職となります。他方,正社員については,雇用期間が定められていませんので,定年までは,雇用契約を終了させる原因がない限り,退職とはなりません。

この雇用契約を終了させる原因は次のとおり大きく分けて2つ有りますが,会社側の都合だけで退職させることは難しいのが通常です。

退職させる方法は大きく分けて2つ

正社員を退職させる方法には,大きく分けて解雇と合意退職があります。

解雇は,会社が一方的に,社員の意向にかかわらず雇用契約を終了させるものです。これに対し,合意退職は,会社と社員が雇用契約の終了を合意するものです。

そうすると,解雇は会社だけでできるため,社員の同意は必要ないため,退職させたい場合,特に社員が退職に同意していない場合には,解雇をすればよいとも思われます。

解雇と合意退職のどちらを選択すべきか?

解雇も合意退職も,雇用契約を終了させるという効果は同じです。ただし,どちらを選択すべきかについては,ケースバイケースですが,結論から言うと,原則として,合意退職を選択すべきといえます。解雇は,社員の意向を無視して会社から一方的にできるという点でメリットがありますが,次のようなデメリットがあるからです。

デメリット①~裁判で解雇の有効性を争われやすく,争われた場合には負けやすい

解雇は法律上,常に有効というわけではありません。労働契約法16条に「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定められているとおり,解雇が権利の濫用となる場合には無効とされます。これを解雇権濫用法理といいます。

どのような場合に解雇が無効となるのかについては,解雇理由毎に個別に別稿にて解説しますが,一般に,解雇した社員から解雇が無効であるとして訴えられた場合,解雇が有効であるとして会社が勝訴するハードルは高いといえます。そして,敗訴した場合に会社が被る損害については後記②のとおりですが,仮に勝訴したとしても,裁判にかかる手間暇や弁護士費用等は会社の負担となってしまいます。そのため,会社としては,解雇が無効であるとして訴えられること自体防止しなければなりません。この点,昔と比べて市民が弁護士にアクセスすることが容易になっていますので,社員の意向を無視して解雇した場合には,社員から訴えられるリスクは格段に高くなっているといえます。このような状況を考慮すると,解雇という手段は安定性を欠くといえ,お勧めはできないということになります。

これに対し,合意退職の場合には,社員も納得した上で退職に合意しているため,後に裁判等の紛争に発展する可能性は低く,また,万が一裁判等になったとしても,退職の合意が会社から騙されたり(詐欺),脅されたり(強迫)したといった原因を社員が立証しない限り,合意退職が無効となることはありません。この立証は社員側でしなければならず,社員が勝訴するハードルは高いのが通常です。

このように,裁判等の紛争に発展する可能性と,裁判等で勝つ可能性という2点で,合意退職の方が解雇よりも優れているため,会社としては,社員を退職させたい場合,まずは前者を検討すべきといえます。

デメリット②~解雇が無効となった場合の会社の負担が甚大

解雇が裁判で無効となった場合には,解雇した時点に遡って,雇用契約が存続していたものと扱われます。つまり,別稿にて詳しく解説しますが,解雇後,対象の社員は出社せず仕事もしていませんが,裁判で解雇が無効と認められるまで,会社に対する賃金請求権は発生していたものと扱われることになります。裁判は事案にもよりますが,第1審の判決までの期間で1年以上かかることもまれではなく,解雇が無効であることが確定した時点で,社員の年収分に相当する金額を支払わなければならないことも珍しくありません。

このような多額の支出は,特に規模の小さな会社にとっては死活問題といえます。このようなリスクがある以上,解雇を選択することは慎重に判断すべきでしょう。

正社員を退職させる際に注意すべき点

解雇について

上記のとおり,一般に,解雇は会社にとってリスキーな選択といえます。そこで,特に選択すべき場合以外には,選択しないようにしないよう注意したいところです。また,どうしても社員が合意退職に応じずない場合には,後に訴えられることを想定して,裁判を有利に進められるよう周到に準備する必要があります。

合意退職について

合意退職をするよう社員を説得することを退職勧奨といいますが,パワハラに該当するような態様で行ったりすると違法となり,会社は損害賠償請求を受けることになります。また,上記のとおり,詐欺や強迫により合意したとして効力を争われないよう,退職勧奨が難航する場合には,社員との面談の内容を議事録として残す等して,退職合意に至った経緯を記録化しておくとより手続が安定することになります。

まとめ

以上のとおり,本人の意向に反して正社員を退職させるのは難しいのが通常であり,基本的には解雇を選択せず,退職勧奨をして合意退職を目指すのがセオリーといえます。

退職勧奨も適正に行う必要があり,会社の人事担当者だけでは難しい場合には,弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。

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