退職勧奨

退職勧奨で提示する優遇措置~退職金の上乗せやパッケージの相場等を解説

問題社員やリストラ対象社員を,後日紛争にならないよう円満に退職させるには,解雇ではなく,退職勧奨により合意退職を目指すのがセオリーです。この点については別稿「問題社員やリストラ対象社員を退職させたい~お勧めの方法や注意点は?」にて詳しく解説しています。しかしながら,対象の社員にも生活があり,精神的な反発も少なからずあるのが通常であるため,すんなりと応じてもらうのは困難でしょう。

そこで,特に問題社員に対しては,別稿「問題社員への退職勧奨の進め方と注意点」で解説しているとおり,社員の落ち度や問題行動を筋道立てて説明して説得することになります。これが退職勧奨における“ムチ”だとすれば,退職に応じることによる退職金の割増し等の優遇措置(パッケージ等)は“アメ”といえるでしょう。この“アメ”と“ムチ”を効果的に使い分けることにより,合意退職が成立する可能性が高くなります。

そこで,本稿では,“アメ”としての優遇措置としてどのようなものがあるか,また,どのようなタイミングで切り出すのが効果的かについて解説します。

退職勧奨でパッケージ等の優遇措置が有効なのはなぜか

経済的な理由

当然のことながら,退職を受け入れてしまうと,すぐに再就職するか,失業保険を受給しないと収入がなくなってしまいますので,貯蓄に余裕がない社員は生活に行き詰まってしまうことになります。会社に残ること自体にはそれほどこだわりがなくても,このような経済的な理由が深刻であるため,退職を受け入れるハードルが高くなるケースは少なくありません。そこで,対象の社員の経済的な事情に応じたパッケージ等を提示することにより,このハードルを低くするという効果が期待できます。

精神的な理由

退職勧奨は,戦力外通告の趣旨を含みます。つまり,会社から必要ないと言われているのと同じであり,これは大なり小なり傷つくものです。自分の仕事やポジションにプライドをもっている人は特にこのような傾向が強く,精神的な面でも退職を勧める会社に反発したくなる心情はよく理解できるところです。このような精神的な反発を和らげるには,相手に礼儀を尽くすなど,面談の際の伝え方を工夫することが重要ですが,相手に配慮していることを形として示すことにより,さらに理解が得られやすくなります。パッケージ等の提示は,このような相手への配慮として分かりやすいため,上記のように経済的な面だけでなく,精神的な面でも,退職を受け入れるハードルを低くすることが期待できます。

退職勧奨の際に提示する優遇措置の種類・相場

社員に提示する優遇措置の種類は,大まかに,①失業保険の条件,②転職準備期間の付与,③退職金の上乗せまたは特別支給の3つになります。これらは択一の関係にはないため,会社の規模や状況,社員側の状況にもよりますが,組み合わせて付与・支給することもできます。以下,それぞれについて詳しく解説します。

①失業保険の条件を有利にする

社員が自己都合により退職する場合には,解雇等の会社都合により退職する場合と比べ,失業保険を受給する条件が不利となります。そこで,優遇措置の一つとして,離職票に記載する離職理由を退職勧奨による退職として,失業保険を受給する条件が有利になるようにすることが挙げられます。条件面で特に重要なのは,失業給付を受けられるまでの期間です。自己都合退職の場合には,失業給付を受給するには7日間の待機期間に加え,3か月の給付制限の期間の経過が必要となるところ,退職勧奨による退職の場合には,給付制限がなく,退職する社員は速やかに失業給付を受けられることになります。再就職先の目処がなく,貯蓄に余裕がない社員にとっては大変大きなメリットとなります。  

他方で,一部の助成金の対象から外れること以外に,この措置は会社にデメリットはありませんので,効果的な場面で積極的に提示されることをお勧めします。

②転職準備期間の付与

退職に応じた場合,一定期間会社に籍を置き,賃金を保障する一方で,労務の提供は免除し,その分を転職活動に充てさせるというものです。期間経過後は退職扱いとなるため,それまでに再就職できない場合には,①と組み合わせるという方法もあります。また,期間中に再就職となった場合に残りの期間に相当する賃金をどうするかは,ケースバイケースであり,交渉のカードの一つとなります。転職準備期間の相場としては,2か月~3か月とする場合が多いように思われます。

③退職金の上乗せまたは特別支給

退職金規程のある会社では,規程により算出される額に上乗せをして,ない会社では,特別に支給するという方法です。外資系企業ではパッケージと呼ばれています。相場としては,月給の3か月から6か月の間が多いように思われますが,1年分とする場合もあります。単純に考えると,解雇をすることで裁判等の紛争となるリスクをお金でヘッジすることになりますので,解雇が無効とされるようなケースでは,裁判等になった場合に和解で支払う解決金と弁護士費用等の見積額が,金額を決める基準の一つとなるでしょう。

退職勧奨の面談時にパッケージを提案するタイミング

上記①から③の優遇措置は,面談において効果的なタイミングで提示したいところです。①については,ほとんどデメリットはありませんが,②,③はコストがかかりますし,キャッシュフローを考えると,会社の負担が最も重いのは③といえます。

まずは,②,③は提示せず,①のみで退職合意できるよう交渉し,社員が難色示すようであれば,②,③の順に提示するのがセオリーといえます。どれくらいの金額を提示するか,上限は事前に検討しておくべきですが,円満な退職というメリットとバランスがとれるかについては,慎重に検討するべきでしょう。その際は,金額面だけでなく,他の社員のモチベーションへの影響等についても合わせて考慮する必要があります。

まとめ

退職勧奨を成功させるには,事前準備が大事であることは別稿「問題社員への退職勧奨の進め方と注意点」のとおりです。その一環として,“ムチ”だけでなく,“アメ”としての優遇措置の内容や,どのように提示するかの検討も準備の一環としてぬかりなくしておきたいところです。

関連記事

コメント

この記事へのトラックバックはありません。